「毎日がなんだか同じに感じる」——セレンディピティ(偶然の出会い)を引き寄せる3つの習慣
毎日が同じことの繰り返しに感じられるとき、私たちは意識してもしなくても、「偶然の出会い(セレンディピティ)」を求めているものです。
セレンディピティは運のいい人だけに訪れるもの、と思われがちです。しかし実は、これは運ではなく「スキル」であり、誰でも後天的に育てられるという考え方があります。
この記事では、実話と研究をもとに、今日から試せる3つの習慣を紹介します。
そもそも「セレンディピティ」とは?
セレンディピティとは、探していたわけでもないのに、思いがけず価値あるものに出会うこと。日本語では「偶然の幸運」などと訳されます。
この言葉が生まれたのは、意外にも古く1754年のこと。イギリスの作家ホレス・ウォルポールが友人への手紙の中で、ペルシャの寓話『セレンディップの三人の王子』にちなんでつくった造語です※1。
「セレンディップ」とは、いまのスリランカを指す古い呼び名。物語に登場する王子たちは、旅の道中で、探してもいなかったものを次々と見つけ出していきます。
こうした偶然は、実は私たちの毎日にも、思っている以上に多く訪れています。
そして、それを人生の転機に変える人もいれば、気づかず素通りしてしまう人もいる。この違いは、いったいどこから生まれるのでしょうか。まずは、2つの「セレンディピティ事例」から見ていきましょう。
※1 参考文献:Merriam-Webster “The Invention of ‘Serendipity’”
https://www.merriam-webster.com/wordplay/happy-birthday-serendipity
セレンディピティ事例❶ 村上春樹が、神宮球場で「小説を書こう」と決めた日

1978年4月1日の午後。当時29歳の村上春樹さんは、神宮球場の外野席に寝そべり、ビール片手にプロ野球の開幕戦を眺めていました。
当時の彼は、東京でジャズ喫茶を営む一人の店主。小説を書いた経験は一度もありません。
1回裏、ヤクルトの先頭打者デイブ・ヒルトンが、鋭い当たりの二塁打を放ちます。打球が左中間を抜けていく——ただそれだけの場面です。けれどその瞬間、彼の頭に理由もなく、ある考えが浮かびました。「そうだ、小説を書いてみよう」。
なぜそう思ったのか、自分でもわからなかったと、彼はのちに振り返っています。それでもその日の夜から机に向かい、秋にはデビュー作『風の歌を聴け』を書き上げてしまいます。世界的作家・村上春樹は、野球場のなんでもない午後に生まれたのです※2。
※2 参考文献:
村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋, 2007年)
東京新聞「<のぼりくだりの街>神宮球場外野スタンド 村上春樹が受けた啓示」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/326179
セレンディピティ事例❷ ジョンとポールが出会った、教会の夏祭り

もうひとつ、海の向こうの話を。1957年7月6日、イギリス・リヴァプールの郊外ウールトン。セント・ピーターズ教会で、夏祭りが開かれていました。演奏で呼ばれていたのは、16歳のジョン・レノンが率いる、アマチュアバンドです。
その演奏を、見に来ていた15歳の少年がいました。名前はポール・マッカートニー。友人のアイヴァン・ヴォーンに連れられ、ただ遊びに来ただけです。演奏が終わったあと、アイヴァンが「紹介するよ」と、二人を引き合わせました。
町内のお祭りで、友達に紹介された。それだけなら、どこにでもある場面です。でも、このときポールは、ジョンのギターを左利き用に持ちかえ、当時のヒット曲を一曲、危なげなく弾いてみせました。その腕前に、ジョンは内心おどろいたといいます。数週間後、ポールのもとにバンドへの誘いが届く——のちに世界を変える、ビートルズの始まりでした※3。
※3 参考文献:National Museums Liverpool “When Paul McCartney met John Lennon”
https://www.liverpoolmuseums.org.uk/stories/when-paul-mccartney-met-john-lennon
なぜ、あの人たちは「偶然」を拾えたのか?
村上春樹さんも、ポール・マッカートニーも、その偶然を自分で計画したわけではありません。球場の打球も、お祭りでの紹介も、向こうから勝手にやってきたものです。
正直に言って、偶然そのものは、私たちの意思では呼び出せません。いつ、どんな出来事が起きるか。そこには、たしかに運の面があります。でも、話はそこで終わりません。やってきた偶然に「出会えるか」「気づけるか」「活かせるか」——ここは、自分で変えられる部分です。ポールが、たまたまギターを弾けたように。
では、何をどう変えればいいのか。これまでセレンディピティや偶然について研究してきた人たちの知見をたどっていくと、カギは大きく3つに整理できます。
すなわち、偶然との出会いは、「行動 × 気づき × 好奇心」で決まる。どういうことか、ひとつずつ見ていきましょう。

セレンディピティの構成要素❶「行動」:偶然は、動いた人のところに集まる

最初の材料は、とてもシンプルです。「動くこと」。
考えてみれば当たり前のことです。家と職場を往復するだけの毎日より、はじめての場所へ出かけ、はじめての人に会う毎日のほうが、偶然の出来事に行き当たる回数は増えます。
偶然は、宝くじに似ています。買う枚数を増やさなければ、当たりようがない。動いた分だけ、偶然の”分母”が増えるのです。
これは、複数の研究でも指摘されてきました※4。
| 研究者 | 言っていること |
|---|---|
| リチャード・ワイズマン(心理学者) | 「運のいい人」は、外に出て人と会い、行動範囲を広げている。だから、チャンスに行き当たる回数が多い |
| サンダ・エルデレズ(情報学者) | いつもと違う場所や情報にみずから足を運ぶ人ほど、思わぬ発見に出くわしやすい |
| ジョン・クランボルツ(キャリア心理学者) | 望むキャリアをつかむ人は、うまくいくまで、粘り強く動き続けている |
三者に共通するのは、「良い偶然は、待つ人よりも、動く人に多く訪れる」というメッセージです。ポールが、あの日お祭りに”足を運んでいた”ように。
※4 参考文献:
Richard Wiseman “The Luck Factor”
https://richardwiseman.wordpress.com/research/luck-and-self-development
Sanda Erdelez “Information Encountering”
https://sandaerdelez.com/publications
John D. Krumboltz “Planned Happenstance Theory”
https://tahatu.govt.nz/career-practice-hub/best-practice/career-theories-and-models/krumboltzs-theory-of-planned-happenstance
セレンディピティの構成要素❷「気づき」:同じ偶然でも、気づけた人だけが受け取れる

先ほど登場した心理学者ワイズマンは、こんな実験をしています。被験者に新聞を渡し、「写真が何枚あるか数えてください」と頼みました。
この新聞には、2ページ目に大きな文字で「数えるのをやめていい。写真は43枚です」と書かれていました。別のページには「これを見つけたと伝えれば、賞金を差し上げます」という一文も。
「自分は運が悪い」という人の多くは、写真を数えることに気を取られ、どちらのメッセージにも気づきませんでした。「運がいい」という人は、たいていすぐに見つけたそうです※5。
全員が、同じ新聞を手にしていました。分けたのは、機会の数ではなく、それに気づけるかどうかでした。
そして、この気づく力は、生まれつきのものではありません。情報行動を研究するマクリらは、気づき(察知)は、あとから鍛えられるスキルだと指摘しています※6。
この「見抜く賢さ」は、言葉の由来にもあらわれています。「セレンディピティ」は、もともと「偶然」と「それを見抜く賢さ」がセットになった言葉でした。
偶然が起きること自体には運の面もありますが、もう一方の構成要素——「それに気づけるかどうか」は、変えていけるのです。
※5 参考文献:Richard Wiseman “The Luck Factor”
https://richardwiseman.wordpress.com/research/luck-and-self-development
※6 参考文献:Stephann Makri & Ann Blandford “Coming Across Information Serendipitously – Part 1: A Process Model”(Journal of Documentation, 2012)
https://www.researchgate.net/publication/263479112
セレンディピティの構成要素❸「好奇心」:好奇心が、偶然を“出会い”に変える

行動と気づき。この2つを内側から動かしているのが、3つめの「好奇心」です。
「なんだろう」「おもしろそう」。そう感じる心があるから、人は知らない場所へ足を運び(行動)、ふとした変化に目をとめます(気づき)。好奇心は、行動と気づきをうしろから押す原動力です。
キャリア研究のクランボルツは、偶然をチャンスに変える5つのスキル——好奇心・持続性・柔軟性・楽観性・冒険心——を挙げ、その筆頭に「好奇心」を置きました※4。
経営学の研究者ブッシュも、幸運な人ほど、目の前の出来事をおもしろがって拾い、「これは使えるかも」と捉え直すのがうまい、と言います※7。ワイズマンが見た「運のいい人」もまた、先のことを前向きに期待する人たちでした。
こうした力は、後から身につくのでしょうか。
ワイズマンは「自分は運が悪い」という人を集め、これらの習慣を練習してもらいました。その結果、多くの人が、一か月後に「運が良くなった」と答えたといいます※5。ひとつの報告として控えめに見ても、偶然との付き合い方が練習で変わりうることを、この結果は示しています。
では、具体的に何をすればいいのか。次の章で、今日からできる3つの習慣を見ていきましょう。
※7 参考文献:Christian Busch “The Serendipity Mindset: The Art and Science of Creating Good Luck”(Penguin, 2020)
https://ssir.org/books/excerpts/entry/cultivating_serendipity
より多くのセレンディピティに出会うために——今日からできる3つのこと
ここまで見てきた「行動・気づき・好奇心」は、特別な才能ではなく、日々の習慣で育てられます。といっても、生活を変えるような大きな決断はいりません。
この章では、今日からでも試せる小さな習慣を、3つ紹介します。どれも、いつもの一日に、ひとつ足すだけのものです。
今日から試せる習慣❶ いつもと違う場所に、一歩だけ足を運ぶ

まずは、体を動かすところから。通ったことのない道で帰る。気になっていた店に入る。誘われた集まりに、とりあえず顔を出す。それだけで、偶然に出会う機会は増えていきます。
「そんな小さなことで?」と思うかもしれません。ですが、ここには研究の裏づけがあります。
アメリカの研究チームが、人々のスマートフォンの位置情報を追い、日々の行動範囲と気分の関係を調べました。その結果、訪れる場所のバリエーションが多い日ほど、人はより前向きな気分でいたことがわかったのです※8。行き先が変われば、目に入るものも、すれ違う人も変わる。その新しさが、心を動かすのだと考えられます。
ここでもうひとつ、セレンディピティの事例を。
1990年、まだ無名だったJ・K・ローリングという人物は、マンチェスターからロンドンへ向かう列車に乗っていました。その列車が、4時間も遅れます。ペンも持たず、ただ座っているしかなかった車内で、ふと頭に浮かんだのが、のちに世界中で読まれる『ハリー・ポッター』の物語でした。
予定が崩れて空いた時間さえ、見方を変えれば、いつもと違う「どこか」になります。まずは、いつもの帰り道を一本だけ変えてみる。始めるのは、そのくらいで十分でしょう。
※8 参考文献:Heller, A. S. et al. “Association between real-world experiential diversity and positive affect relates to hippocampal–striatal functional connectivity”(Nature Neuroscience, 2020)
https://www.nature.com/articles/s41593-020-0636-4
今日から試せる習慣❷ 一日の終わりに、「今日のよかったこと」を振り返る

2つめは、「気づく力」を鍛える習慣です。やり方はかんたん。寝る前に、その日あった「よかったこと」をノートに書き留めます。おもしろかったこと、意外だったこと、ちょっとした発見。どんなに些細でもかまいません。
なぜ書くと効くのか。ポイントは、「あとで書く」と決めておくと、日中の注意の向きが変わることにあります。夜に思い出そうとするから、昼のあいだ、自然とアンテナが立つ。気づきの感度が、少しずつ上がっていくのです。
同様の慣の効果は、心理学でも確かめられています。ポジティブ心理学の第一人者セリグマンらは、「その日よかったこと」を毎晩3つ書き出してもらう実験を行いました。その結果、参加者の幸福感は高まり、効果は数か月にわたって続いたと報告されています※9。
先ほどの心理学者ワイズマンも、運を良くする練習のひとつに「幸運日記」を挙げていました。書くという行為が、見過ごしていたものを、見えるようにしてくれるのです。
※9 参考文献:Seligman, M. E. P. et al. “Positive Psychology Progress: Empirical Validation of Interventions”(American Psychologist, 2005)
実践の解説:Greater Good in Action(UC Berkeley)“Three Good Things”
https://ggia.berkeley.edu/practice/three-good-things
今日から試せる習慣❸ 気になったことは、その場で放っておかない

最後は、好奇心を「使う」習慣です。「なんだろう」と思ったとき、そのまま流さない。ひとつ調べてみる。誰かに、ひと言たずねてみる。誘われた話に、のってみる。それだけで、好奇心は動き出します。
「忙しいのに、寄り道を?」と感じるかもしれません。ですが、好奇心にしたがうことは、けっして無駄になりません。
カリフォルニア大学のグルーバーらは、人が強い好奇心を抱いているとき、脳の記憶や意欲に関わる部位が活発になることを突き止めました。しかもこのとき、興味の対象そのものだけでなく、たまたま一緒に目にした無関係な情報までよく覚えていることが確認されました※10。好奇心が高まった瞬間、人の脳は、まわりのものを吸収しやすい状態になるのです。
また、若き日のスティーブ・ジョブズは、大学で、なんの役に立つあてもないまま、興味だけでカリグラフィー(文字を美しく書く技術)の授業を受けました。その学びが生きたのは、10年後。
アップルのコンピュータの、美しい文字デザインとして実を結びます。このように、気になることを追いかけた「点」は、あとになって「線」につながることもあるでしょう。
※10 参考文献:Gruber, M. J., Gelman, B. D. & Ranganath, C. “States of Curiosity Modulate Hippocampus-Dependent Learning via the Dopaminergic Circuit”(Neuron, 2014)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4252494/
まとめ)「偶然が来ない毎日」から「偶然に気づける毎日」へ

セレンディピティは、運のいい人だけに与えられた才能ではありませんでした。行動し、気づき、おもしろがる。この3つの習慣で、誰もが少しずつ育てていけるものです。
もし毎日が同じことの繰り返しに見えるとしても、それは、面白いことが起きていないからではないのかもしれません。ただ、気づかずに通り過ぎているだけ。偶然は、今日もきっと、あなたのそばを通っています。
少し有名な話ですが、スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式でこう語りました。「点と点は、振り返って初めてつながる」(※11)。今日打った小さな点が、いつか思いがけない線になる日が、きっと来ます。
まずは明日、いつもと違うことを、ひとつだけ。あなたの毎日に、小さな「よかった」が増えていきますように。
あなたのモヤモヤも、
言葉にしてみませんか?
「毎日がなんだか同じに感じる」——セレンディピティ(偶然の出会い)を引き寄せる3つの習慣に何かを感じたら、
あなたの想いを誰かに聞いてもらったり、誰かの体験談に触れてみましょう。