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これからのリーダーシップについて考えてみよう──2000年のリーダーシップの歴史とAI時代のリーダー像

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これからのリーダーシップについて考えてみよう──2000年のリーダーシップの歴史とAI時代のリーダー像

「リーダーシップ」。──仕事をしていると、とてもよく聞く言葉です。

そして2026年現在、世の中はこれまでより一層、リーダーシップを執る人が求められているように感じます。生成AIが職場のインフラとなり、「一定水準の正しい答え」を誰もが瞬時に手にできるようになった今、「それでも人がリーダーであることの意味は何か」が、あらためて問われ始めているからです。

一方で、「リーダーシップを取るであったり、率先して行動するであったりが苦手」という人も少なくないでしょう。または、「これまでリーダー職・管理職として働いてきたが、最近になってリーダーシップの取り方について悩むようになった」という人もいるかもしれません。

もしあなたがリーダーシップを適切かつ効果的に発揮していくとしたら、まず「リーダーシップ」という概念自体への理解を深めることが重要だと、私は思います。

この記事では、リーダーシップの役割と、これまでの世の中でリーダーシップがどう解釈され、そして実践されてきたか、そしてAIが浸透した2026年以降に求められるであろうリーダーシップのあり方について、お話していきます。

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リーダーシップとは、どんなものか

リーダーシップの定義を考える章のイメージ画像

まず、私たちが「リーダーシップを取る」という行為をどう定義すると良いかについて、考えてみましょう。

辞典やインターネット検索では、「リーダーシップを取る=指導する、主導権・統率力を持つ」といった意味合いで紹介されることが多いですが、もう少しかみ砕いていうと、「望ましい状態の実現に向けて、他者に働きかけること」と表現できるでしょう。

「望ましい状態」とは、会社組織でいえば「(直近の)目標」や「ミッション」、「ビジョン」などが挙げられます。または、近しい人たちに向けて「業務をより効率化していくこと」であったり、「チームワークを活性化していくこと」「信頼関係を構築していくこと」といった他者に対して働きかける行為も、リーダーシップといえます。

また、リーダーシップは単独的な行為ではなく、必ず「他者(他人)」に関わることが前提となる点を押さえておくべきでしょう。他者への意識・関心なしにリーダーシップは起こしえません。

では、そのリーダーシップを発揮するために、何が求められるのか──。このような議論は、実に2,000年以上も昔からされてきました。なぜそんなに長い年月をかけているのかというと、リーダーシップは世の中や環境の推移や変化に合わせて捉え方を再定義(アップデート)していく必要があったからでしょう。

そこで続いては、これまでリーダーシップがどのような捉え方・解釈をされてきたのか、その変遷についてお話しします。

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リーダーシップの歴史

Phase1 「リーダーとしての【資質】があるか、それが重要だ。」と言われた時代

リーダーシップ特性論(紀元前500年頃~1940年頃)

リーダーシップ特性論の時代を表すイメージ画像

リーダーシップの概念は、紀元前500年頃にはすでに存在していました。

例えば、中国春秋時代の思想家 孔子は「徳のある統治者がその持ち前の徳をもって人民を治めるべき」と訴え(徳治政治)、古代ギリシアの哲学者プラトン(Platon 前427~前347)は、自身の主著『国家』で「国を治めるのは、徳のある哲人が行うべきだ」という「哲人政治」を主張しています。

これら指導者たちが伝えるリーダーシップ像に共通してみられるのが、「リーダー(指導者)は『徳』を持っているべきである」という考え方です。

つまり、リーダーシップを発揮するためには、徳の深さという「資質」が求められるということですね。そして、この考え方は「リーダーシップ特性論」といわれ、その後の時代にも受け継がれていくことになります。

ただし、求められる資質自体については、時代の変遷に伴い変化していきました。イタリア、ルネサンス期の政治思想家 マキャベリ(1469~1527)は、『君主論』でリーダーに求められる資質の一つに「したたかさ」や「権力を誇示すること」を挙げています。

また、19世紀に入ってからはイギリスの歴史家トーマス・カーライル(1795~1881)が主著『英雄崇拝論』にて、英雄(リーダー)の条件として「その目つきが事物の仮象を見抜き、事物そのものを見抜く誠実さ」があるとしました※1

その後、20世紀に入りアメリカの心理学者ストッグディルが自らの研究をもとに、リーダーのもつ資質として「公正」「正直」「誠実」「思慮深さ」「公平」「機敏」「独創性」「忍耐」「自信」「攻撃性」「適応性」「ユーモアの感覚」「社交性」「頼もしさ」といった特性を挙げました※2

リーダーシップを発揮するためには、本当に資質が必要?

さて、ここで一度ひと息ついてみましょう。

リーダーシップを発揮するためには、果たして本当に『徳』のような資質が必要なのでしょうか。そして、時代と共に異なる主張をする人物が登場したのはなぜでしょう。

「立場が人を創る」という言葉がある通り、まったくリーダータイプに見えなかった人が、リーダーの立場になって行動が変容するというのはよく聞く話です。「資質を持った人のみが、リーダーシップを発揮できる」という考えは、いささか極論かもしれません。

また、その資質自体についても、「あるなしを、どう測って判断すればよいのか」という問題も残ります。例えばストッグディルが挙げた「公正」、「正直」、「誠実」、「思慮深さ」などについては、「この人はこれだけ持っているからリーダーになれる」ということをどこまで測れるのでしょうか。おそらく、計測することは不可能だと思います。

事実、ストッグディル自身が過去の膨大な研究を検証した論文のなかで、「人は特性を備えているというだけでリーダーになるのではない」こと、つまり特性とリーダーシップ発揮との間にはっきりとした因果関係を見出せないことを指摘し、リーダーシップ特性論の限界が広く認識されるようになりました※2

実際にリーダーシップを発揮する人物がいたときに、「必ずしもこれら資質が備わっているとは限らない」ことが多く確認されたのです。

リーダーシップの研究自体はその後も多くの人によって継続されますが、リーダーシップ特性論を支持する人は次第に少数派になっていきます。

Phase2 「リーダーシップは、その人の【行動】で決まる」と言われた時代

リーダーシップ行動論(1940年頃~1960年頃)

リーダーシップ行動論の時代を表すイメージ画像

リーダーシップ特性論が影を潜めて、代わりに主流となった考え方が「リーダーシップ行動論」でした。リーダーシップ行動論とは、「優れたリーダーシップは持って生まれた資質によるものではなく、行動によって発揮される」という考え方です。

代表的な考え方に、日本の社会心理学者 三隅二不二が1966年に提唱した「PM理論※3 と、アメリカの経営コンサルタントのブレイク(R.R. Blake)とムートン(J.S. Mouton)が1964年に提唱した「マネジリアルグリッド論※4 があります。

PM理論

PM理論とはリーダーシップを「課題達成への行動」と「人間関係・集団維持への行動」の2つに分け、各行動とその結果の強弱で判断するものです。

PM理論の4象限(PM/Pm/pM/pm)を示した図

図中の右上の「PM」位置(両方とも大文字になっている箇所)に達している状態において、一番望ましいリーダーシップが発揮されるという考えです。

マネジリアルグリッド論

マネジリアルグリッド論もPM理論とよく似た考え方です。こちらは、「人への関心度」と「業務への関心度」をそれぞれ縦軸・横軸の1~9段階のレベルで分け、対象となる人をプロット(位置づけ)します。

マネジリアルグリッド論の縦軸「人への関心度」と横軸「業務への関心度」を示した図

位置づけされた場所によって、その人のリーダーとしての特性・適性を判断するというのが、このマネジリアルグリッド論です。

タイプ 業務への関心度 人への関心度
無関心型 低い 低い
権威服従型 高い 低い
カントリークラブ型 低い 高い
組織人間型 一定ある 一定ある
チーム管理型 高い 高い

上の表では、「チーム管理型」のタイプに当たる人が、「リーダーとして適性がある」ことになります。

「リーダーシップ行動論」は、本当に有効な理論か

PM理論とマネジリアルグリッド論では、どちらも「共に働く人への意識・働きかけ」と「業務への意識・働きかけ」を評価軸にしている点でとても良く似ており、かつ「その人の行動でリーダーの適性を判断する」という点も共通しています。評価をする際の観点としても、納得度の高い理論と言えるかもしれません。

ですが、これらPM理論とマネジリアルグリッド論においても、現在では有効なリーダーシップ論として支持する人はそこまで多くありません。

その理由は、実際にリーダーシップが問われるシーンでは、様々な環境(外的要因)があり、リーダーシップ行動論で挙げられるような行動・能力を強化すれば必ずうまく行くとは断言できないからです。

このことは、実際の業務シーンを想像してみるとイメージが付きやすいでしょう。例えば、売上向上を急務としている会社・組織でリーダーシップを発揮する際に、PM理論やマネジリアルグリッド論で挙げたような行動特性を強化しただけでうまく行くかというと、そうとは限りませんよね。

リーダーシップ行動論は、「リーダーとして活動する際の必須要件」の説明としては妥当でかつ解りやすいのですが、市場やテクノロジーの変化、その他ステークホルダーからの影響などに対応したリーダーシップを取るためには、それだけでは足りないのです。

Phase3 「【環境や条件】によって、取るべきリーダーシップは変わる」と言われた時代

リーダーシップ条件適応論(1960年頃~1980年頃)

リーダーシップ条件適応論の時代を表すイメージ画像

ここまで紹介した「リーダーシップ特性論」や「リーダーシップ行動論」は、いわば「どんな状況においても発揮できるリーダーシップとはどのようなものか」への探求であったと言えるでしょう。

ですが、そもそも「どんな状況」にも適応する普遍的なリーダーシップのあり方など存在するのでしょうか。そもそもリーダーシップとは、環境や状況によってその在り方自体も変化していかなくてはならないものなのかもしれません。

──そして、そのような考えのもと発展したのが「リーダーシップ条件適応論」です。

リーダーシップ条件適応理論は、1960年代の終わり頃から注目されたリーダーシップ論の1つです。「全ての状況に適応される普遍的なリーダーシップ・スタイルというものは存在しない。状況に合わせて、それぞれ異なったリーダーシップスタイルを選択する必要がある」というのが、この理論の考え方の軸となっています。

リーダーシップ条件適応理論の代表的な理論としては、フィドラー理論、パス・ゴール理論、SL理論があります。ここでは、フィドラー理論とパス・ゴール理論について紹介しましょう。

フィドラー理論

フィドラー理論では、リーダーシップのタイプを「仕事志向型」と「人間関係志向型」の2つに分けて、それぞれどういった環境時にパフォーマンスを発揮しやすいかを説明しています※5

環境の分類としては、「上司と部下の関係(良い⇔悪い)」・「業務内容(シンプル⇔複雑)」・「当事者の権限(強い⇔弱い)」があります。

以下の図は、フィドラー理論において「それぞれの環境の組み合わせで仕事志向と人間関係志向どちらを優先すべきか」を示したものです。

フィドラー理論における環境の組み合わせと、仕事志向・人間関係志向の有効性を示した図

フィドラー理論のポイントは、「仕事志向と人間関係志向について、安易に『どちらも大切なもの』と片づけるのではなく、環境に応じてその働きかけを強めたり弱めたりする必要がある」という主張があることです。

パス・ゴール理論

続いてはパス・ゴール理論を見ていきましょう。こちらの理論では、リーダーの行動タイプを「指示型・支援型・参加型・達成志向型」と4つに分け、それぞれどういった環境・状況時に有効になるかを示しています※6

リーダー行動 内容 どのような条件下で効果的か
指示型 与えられた課題を達成する方法や工程を具体的に教える 業務フローがあいまいなとき/チーム内の関係性が形成途中であるとき/部下の経験値や自律性が高くないとき
支援型 部下の状態に気遣い・配慮を示す 業務フローが明確にあるとき/リーダー・部下間の役割分担が明確にあるとき
参加型 決定を下す前に部下に意見を求め、参加する 部下の経験値や自律性が高いとき/部下との関係性が良好なとき
達成志向型 高い目標を示し、部下に努力を求める 部下の経験値や自律性、および自己解決意欲が高いとき

出典:スティーブン・P・ロビンス『[新版]組織行動のマネジメント』ダイヤモンド社の内容をもとに、一部弊社加筆※6

リーダーは4つのタイプの行動を、その組織・チームの「環境条件」および「関わる部下の特性」をもとに選択し、行動する──というのが、パス・ゴール理論の考えです。

パス・ゴール理論のリーダー行動4タイプを示した図

「環境や状況に合わせて、リーダーシップのあり方は変わる」と、心からそう思えるか。

フィドラー理論やパス・ゴール理論の「リーダーシップ条件適応論」に見られる「環境や状況に合わせて、リーダーシップのあり方は変わる」という考えは、非常に適切だと私は思います。

一方で、これまでのリーダーシップ論が「リーダーとしての人間性」を重視していたのに対して、これら理論はリーダーシップの主目的を「結果や業績(パフォーマンス)の向上」とする傾向が強まっています。

私たちは、リーダーに対して心のどこかで「リーダーとしての人間性や資質」を期待していることも多いでしょう。対しての条件適応論でとなえるリーダーシップ論はその点についてはあまり触れていません。

例えば、フィドラー理論にあった「特定の環境下では、人間関係志向型のリーダーシップはパフォーマンスが悪くなる」という主張に不協和音のようなものを感じた人もいるのではないでしょうか。

つまり、頭ではわかっていても、心のほうは付いて行かないこともある──、リーダーシップ条件適応論には、そんなもどかしさもあるように感じられます。

Phase4 「時代の変化に合わせ、自らも変化していくことを模索する」時代

現代の様々なリーダーシップ理論(コンセプト理論 1980年頃~現代)

現代のリーダーシップ理論(コンセプト理論)の時代を表すイメージ画像

ようやく現代の時代にやってきました。現代においては、先に紹介したリーダーシップ条件適応論を発展させた「新たなリーダーシップ理論」が数多くあります

これまでの時代のリーダーシップ理論との大きな違いは、その「多様性」です。ここでは、代表的なものを紹介します。

変革型リーダーシップ

変革型リーダーシップのイメージ画像

社会情勢・市場の変化や技術革新のスピードの高まりに伴い、企業リーダーたちが募らせた危機感や「環境変化に合わせて自分たちも変革していく」ことへの必要性から育まれたリーダーシップ理論が、「変革型リーダーシップ」です。

変革型リーダーシップは、組織が経営危機などに瀕して、まさに「変わらなければならない」状況下で発揮されやすいといいます。

例えば、「アメーバ経営」と呼ばれる経営手法によって、経営破綻した日本航空をわずか2年余りでV字回復させた稲盛和夫氏や、「日産リバイバル・プラン」と銘打って苛烈なコストカットを行いつつも世間をあっと驚かせるその後の回復と成長を実現したカルロス・ゴーン氏をイメージすると良いかもしれません。

変革型リーダーシップを発揮していく為には、以下のIから始まる4つの要素が必要といいます※7

4つのI 説明
Idealized influence(理想化された影響) 自身の理想で人を惹きつける、カリスマ性。ビジョン及び使命の意味を提供する
Inspirational motivation(モチベーションの鼓舞) 部下の感情や前向きな気持ちを喚起させる
Intellectual stimulation(知的刺激) 部下の関心や好奇心、その他思考力や想像力を喚起させ、考えや価値観に影響を与える
Individualized consideration(個別の配慮) 部下ひとりひとりを個別に扱い、コーチし、アドバイスする

参考:Bass & Avolio(1994)の提唱する「変革型リーダーシップの4つのI」の内容を、一部弊社加筆※7

現代社会においては、これまで発展と繫栄を続けていた大企業であっても、様々な要因に伴い急激な業績不振に陥ってしまうケースが多く見られています。

自組織・チームに対して「現状のままでは、淘汰されてしまう」という危機感を持っている人も多いでしょう。そのような中で、力強いビジョンと推進力を持って現状を打破し、その「変革能力」を重視するのが、変革型リーダーシップです。

サーバント・リーダーシップ

サーバント・リーダーシップのイメージ画像

サーバント・リーダーシップとは、アメリカのロバート・K・グリーンリーフが提唱した「リーダーは、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考えに基づいた、周囲の人々との信頼関係を重視したリーダーシップ理論です※8

グリーンリーフが活動していた当時(1970年代)のアメリカでは、ベトナム戦争の泥沼化、ウォーターゲート事件の勃発、そして長らく続いた市場成長の鈍化に伴い、人々は国や社会のリーダー層に不信感を募らせていました。

そのような背景を受け、グリーンリーフは従来の権威性の色濃いリーダーシップではなく、真に人々が望む素晴らしい状態(社会や環境)を実現するために、「共に行動できる」リーダーが大切だと考え、この理論を打ち立てたのです。

その後、現代の「個人の多様な生き方や考え方」を重視する風潮の高まりに合わせて、人々の多様な価値観を重視するサーバント・リーダーシップを支持する人は増えています。

NPO法人「日本サーバント・リーダーシップ協会」によると、サーバント・リーダーシップを発揮するためには以下の10の特性が重要といいます※9

特性 説明
傾聴 「耳」「目」「心」を傾けて真摯な姿勢で相手の話を聴くコミュニケーションの技法
共感 他人の考え・主張を受けとめ、喜怒哀楽の感情を共有すること
癒やし 様々な理由で意気消沈したり傷ついた人をいたわり心を癒す行為
気づき 固定観念や偏見にとらわれず、物事をありのままに見て、その本質を見る能力
説得 一方的に従わせるのではなく、相手の理解を得て仕事をしてもらうようコミュニケーションを取ること
概念化 環境や状況、起きた出来事の背景にある性質や要素に着目して、それらの事物を一つの概念(コンセプト)のもとに「統合」すること
先見力 過去の事例や一般概念をもとに、未来を見通していく力
執事役 自分が利益を得ることよりも、相手に利益を与えることに喜びを感じるようにしたり、相手から一歩引くことを心得る能力
人々の成長に関わる 関わる人たちの資質や特性に注目し、それらに合わせての成長のあり方をイメージし、かつ寄与していくこと
コミュニティづくり 関わる人たちが安心感や愛着を持てる環境を構築し、それぞれが成長感と幸福感を持てるコミュニティにしていくこと

オーセンティック・リーダーシップ

オーセンティック・リーダーシップのイメージ画像

オーセンティック・リーダーシップとは、「オーセンティック(authentic:本物の、確実な、真正な)」の言葉にあるように、「自分らしさ」「真の自己」を軸に、自分自身の価値観や信念に基づいたリーダーシップを大切にする理論です。

オーセンティック・リーダーシップは比較的新しいリーダーシップ理論で、2000年代前半から多くの経営リーダーに注目され始めました※10

これまでのリーダーシップ理論ではリーダーが持つべき価値観について特定するものが多かったですが、オーセンティック・リーダーシップではその価値観を「その人自身」に委ねます。──これまでのリーダーシップ論と大きく主張が異なっているのが分かるでしょう。

そもそも、リーダーシップは「望ましい状態の実現に向けて、他者に働きかけること」をいいますが、実現するためにはその思想・価値観において他者からの共感が不可欠でしょう。

一方で思想・価値観とは人によって千差万別であり、旧世代の「リーダーシップ特性論」では「こうあるべき」といった画一的な徳や資質に落とし込むリーダーシップ手法はあまりうまくいかないことが多いことが明らかになっています。

それら「どちらかを立てれば、片方が立ち行かなくなる」ような課題に応えるべく、リーダーが持つべき思想・価値観を自分の内側に求めていこうとするのが、オーセンティック・リーダーシップです。

オーセンティック・リーダーシップの基本的な考え方のひとつに、「誰もが自分らしさを発揮し、リーダーとなれる」というものがあります。

また、その際は以下の5つの特性(目的、価値観、人間関係、自己統制、真心)が求められるといいます※10

オーセンティック・リーダーシップに求められる5つの特性(目的、価値観、人間関係、自己統制、真心)を示した図

「オーセンティック・リーダーシップは誰でも発揮できる」といいましたが、その一方で発揮するためには相応の資質・働きかけが求められることが上記図からうかがえます。

ただし、ここで挙げた特性はリーダーシップ云々に関わらず、多くの人にとって「自身が成長させたいと思っている要素」に重ねられるのではないでしょうか。

つまり、オーセンティック・リーダーシップとはリーダーとして活躍するために「自分ではない誰か」になるのではなく、「自分が真にありたい姿」を求めていく行為にも重ねられる理論といえるでしょう。

シェアド・リーダーシップ

シェアド・リーダーシップのイメージ画像

シェアド・リーダーシップとは、リーダーを特定の人に縛ることなく、複数のメンバーまたは全員でリーダーシップを執るという、リーダーシップ理論です※11

振り返ってみると、「職場で活躍する人」とは実に多様であることが確認できます。例えば営業チームで高い売上目標を掲げられた際には行動力や提案力に秀でた人が活躍するかもしれませんし、企画立案の際には最初にアイデア力がある人が活躍して、その後は計画的かつ論理的に(そしてときに地道に)アイデアを形にする人が活躍することが多いでしょう。

そのほか、スキルアップに伸び悩む後輩を育成・フォローする人や、意見がまとまらないチームをまとめたり協調性を促す人など、発揮される資質や特性は様々です。

そして、どの行為も(見ようによって)「リーダーシップを発揮している」と言うことができます。そういった個々人の強みや特性が発揮されるシーンを大切にし、皆がリーダーになり、同時に皆がフォロワーになる組織・チームを育んでいくのが、シェアド・リーダーシップです。

シェアド・リーダーシップは「(その環境が適えば)誰もがリーダーシップを発揮できる」という考えに基づいており、その点は前述のオーセンティック・リーダーシップとも共通しています。

また、これまでのリーダーシップ理論はリーダーとなる個人の在り方にフォーカスされてきましたが、シェアド・リーダーシップは個人ではなく組織(環境)の在り方にフォーカスしている点にも注目すべきでしょう。

シェアド・リーダーシップを発揮できる組織にしていくためには、以下の要素が必要になるといいます※11

シェアド・リーダーシップは組織的な働きかけが不可欠ですが、個人レベルで目指せないのかというと、そのようなことはありません。

例えばある人とペアで業務をする際に、相手の長所や強みに合わせて作業分担をしたり、チームリーダーが部下の適性に合わせてそれぞれ任せる分野を設けたり、その際に自身がフォロワーに回って相手のリーダーシップを発揮させること(またはその逆を促すこと)は、シェアド・リーダーシップ的な働きかけと言えるでしょう。

ポイントは、「個(人)の発揮」よりも「発揮できる環境を整えること」を意識することです。シェアド・リーダーシップでは、このような俯瞰的な視点が不可欠になります。

現代のリーダーシップ理論は、どこに向かっていくのか?

現代のリーダーシップ理論として「変革型リーダーシップ」、「サーバント・リーダーシップ」、「オーセンティック・リーダーシップ」、そして「シェアド・リーダーシップ」についてお話しました。

これまでの時代のリーダーシップ理論と比べて、提唱される定義や考えに多様・多彩さを感じたのではないでしょうか。

現代のリーダーシップ理論の多くは概念的な要素を重視するものが多いことから、それらをまとめて「コンセプト理論」と言われることもあります。ですが、その概念自体も様々ですので、これら理論を一括りにして「こういうものだ」と示すのは難しいかもしれません。

また、現代のリーダーシップ理論は、過去の理論と比べて「その理論は、心に響くか(本心から、納得・共感できるか)」を大切にしているようにも感じられます。

見ようによっては、リーダーシップ理論は時代の変遷や環境変化に合わせてアップデートされ続けてきつつ、その一方で現代のリーダーシップ理論は、古代から近代のリーダーシップ特性論に色濃くあった「その人(または組織)の在り方」を重視する流れに回帰されてきているのかもしれません。

リーダーシップの歴史 まとめ

リーダーシップの歴史のまとめを表すイメージ画像

ここまで、リーダーシップの歴史についてお話しました。

一気に読まれた方は、もしかしたら情報量の多さに整理しきれないところもあったかもしれません。ここまでの流れを、ざっとまとめてみましょう。

時代 リーダーシップはどう捉えられたか キーワード 理論
紀元前500年頃~1940年頃 リーダーになるには、その人の資質が重要だと考えられた 資質 リーダーシップ特性論
1940年頃~1960年頃 リーダーシップは、資質よりも取るべき行動に表れると考えられた 行動 リーダーシップ行動論
1960年頃~1980年頃 リーダーシップのあり方は、環境や条件に応じて変える必要があると考えられた 適応 リーダーシップ条件適応論
1980年頃~現代 変化に対応しながら、周囲の共感を得て力を引き出すことが重視されるようになった 変化・共感 現代のさまざまなリーダーシップ理論(コンセプト理論)

現代のリーダーに求められるのは、決めた方針を守り続けることだけではありません。環境に合わせて方針を見直し、その理由を周囲に伝え、納得して動いてもらうことまでが求められます。

つまり、「自分たちが変われるか」と「周囲と一緒に変われるか」の両方が問われるようになったのです。

──そして、2026年。

2,000年つづいたこの歴史に、いままさに新しいページが加わろうとしています。書き込まれるキーワードは、「断絶」と「AI」

環境の変化がリーダーシップを変えてきたのだとしたら、この2つの変化は、私たちに何を求めてくるのでしょうか。次章で見ていきましょう。

3
2026年以降、これからのリーダーシップはどうなる?

2026年以降のリーダーシップを考える章のイメージ画像

ここまで見てきたように、リーダーシップの在り方は、その時代に組織が直面する課題に合わせて変化してきました

では、私たちがいま立っているのは、どのような環境なのでしょうか。

キーワード①「断絶」──共通の前提を持ちにくくなる世界

キーワード①「断絶」を表すイメージ画像

2026年1月のダボス会議で繰り返し語られたテーマのひとつが、世界の「断絶」です。カナダ首相は「私たちは断絶の真っただ中にいる」と述べ、会議の様子は「古い秩序はもう戻らない」とも報じられました※12

世界経済フォーラムの『グローバルリスク報告書2026』でも、世界は分断と対立を特徴とする「競争の時代」に入ったと指摘されています。直近のリスクの第1位は「地経学上の対立」、第2位は「国家間武力紛争」。貿易や技術、安全保障を支えてきた共通の枠組みが揺らいでいます※13

もちろん、国際社会の分断と、職場で起きている問題を同じものとして扱うことはできません。

ただし、「これまで共有されていた前提が通用しにくくなる」という点では、私たちの職場にも似た変化が起きています。たとえば、「この会社では長く働くものだ」「仕事の進め方は見て覚えるものだ」「上司と部下は同じ価値観を共有している」といった前提です。

人の入れ替わりが増えている 2025年の転職者は330万人、転職希望者は1,023万人にのぼります※14。「いまのメンバーと、この先も長く働く」という前提を置きにくくなっています。
仕事に対する前提が異なっている 総務担当者の75.0%が、Z世代社員のマネジメントに難しさを感じると回答しています※15。世代によって、働く目的や指示の受け止め方、成長への期待が異なることもあります。
知識を引き継ぐ時間が短くなっている 大卒新入社員の33.8%が、就職後3年以内に離職しています※16。時間をかけて知識や価値観を共有する前に、メンバーが入れ替わる職場も少なくありません。

これらの数字からは、「同じ会社で長く働き、似た経験や前提を共有しているメンバーだけでチームをつくること」が、以前より難しくなっている様子が見えてきます。

かつては、時間をかけてメンバー同士の価値観をそろえ、共感や一体感を育てていくこともできました。もちろん、現在も対話や共感は大切です。ただし、メンバーが入れ替わり、世代によって仕事への前提が異なり、事業環境そのものも変化する状況では、「十分にわかり合えるまで待ってから動き始める」ことが難しい場面も増えていきます。

共通の背景を持っていなくても、ある程度協働できるチームのつくり方が必要になっているのではないでしょうか。

キーワード②「AI」──一定水準の「答え」を誰もが得られる職場

キーワード②「AI」を表すイメージ画像

メールの下書き、会議資料の作成、企画の壁打ち、部下へのフィードバック。これまで上司や同僚に相談していた仕事の一部を、まずAIに持ち込む場面が増えています。

その結果、AIは仕事を効率化する道具であるだけでなく、上司と部下の「信頼」にも関わる存在になり始めました。

英国の従業員調査では、上司や経営層がコミュニケーションをAIに頼っていると知った場合、43%が「欺かれた」と感じると回答しました※17。一方、「自社の管理職がAIを効果的に使うスキルを備えている」と考える人事責任者は、わずか8%です※18

問題は、AIを使うか、使わないかではありません。どこまでをAIに任せ、どこからを自分の判断として引き受けるのかです。

たとえば、部下へのメッセージをAIに整えてもらうこと自体が、信頼を損なうとは限りません。しかし、評価の理由や本人への期待までAI任せにすれば、「これは本当に上司の言葉なのか」と疑問を持たれるでしょう。

リーダーには、AIを活用しながらも、自分が考えたことと責任を持つ部分を示すことが求められます。

さらに、部下が上司より先にAIへ質問する場面も増えるでしょう。一定水準の情報や提案を誰もが数秒で得られる職場では、単に「答えを知っていること」だけで信頼を得るのは難しくなります

では、そのような職場で、リーダーは何によって信頼され、チームを支えていくのでしょうか。

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断絶とAIの両方に向き合う、リーダーシップの「3つの鍵」

「断絶」と「AI」は、まったく別の問題に見えます。

しかし、両者には共通点があります。断絶が進む職場では、「同じ前提を共有しているはず」とは考えられません。AIが普及した職場では、「リーダーだけが答えを持っている」とも考えられません。

つまり、これからのリーダーには、前提や答えを自分のなかに抱えるのではなく、周囲が考え、判断し、動ける形にして渡すことが求められます。そのための視点を、次の3つに整理します。

  1. 判断のコンテクストを共有する
  2. 人とAI、人と人の役割を設計する
  3. チームが向き合う問いを定める

鍵①【判断のコンテクスト】結論だけでなく、「なぜそう判断したか」を共有する

鍵①「判断のコンテクスト」を表すイメージ画像

たとえば、上司から「この案件は、値引きしてでも取りにいこう」と言われたとします。

結論だけを聞いた部下には、「なぜ今回は値引きするのか」がわかりません。そのため、似た案件が来るたびに、また上司へ判断を求めることになります。

一方で、上司が「紹介につながる可能性が高い顧客だから」「今期は短期的な利益より、将来の取引を重視しているから」と理由まで伝えれば、部下はその考え方を別の案件にも応用できます

結論の背景には、何に注目し、何を優先し、どのような条件で判断したのかという「コンテクスト」があります。たとえば、次のような情報です。

  • 何を見たのか――どの数字や変化、相手の反応に注目したのか
  • 何を優先したのか――利益、スピード、信頼、安全性のうち、何を重視したのか
  • 何と比べたのか――ほかの選択肢と比べて、なぜこの案を選んだのか
  • どのような場合に判断を変えるのか――どの条件になったら、別の判断をするのか

熟練者の判断に埋め込まれた暗黙知を、その背景や基準とともに言語化し、組織で共有する重要性は以前から論じられてきました※19。しかし、その主な手段である対話や共同体験には、相応の時間がかかります。

ここに変化をもたらしつつあるのが、AIです。職場の熟練者たちの判断の仕方を、過去の議論や問題解決の履歴とともにAIへ取り込み、若手が組織の考え方を学びやすくした自動車メーカーの事例もあります※20

ただし、AIが判断のコンテクストを自動的に読み取ってくれるわけではありません。まずは、人が判断の理由を言葉や記録として残す必要があります。

重要な判断をしたあとに、「何を見たか」「何を優先したか」「どのような場合なら別の判断をするか」を数行残すだけでもよいでしょう。会議の記録や過去の対応履歴が蓄積されれば、AIを使って共通する判断基準を整理したり、似た事例を探したりしやすくなります。

鍵②【協働の設計】わかり合うことと、役割を明確にすることを分けて考える

鍵②「協働の設計」を表すイメージ画像

2つめの鍵は、「協働の設計」です。カリフォルニア・マネジメント・レビュー誌の論考では、AI導入でつまずく組織の多くは、技術そのものではなく、「どのような問題に、人とAIをどう組み合わせるか」という見立ての部分でミスマッチを起こしていると指摘されています※21

人とAIの役割を考えるときは、仕事について次の3つを確認します。

  • 似た事例があるか――過去のパターンを使える仕事なのか、初めて直面する仕事なのか
  • 手順に分けられるか――条件や手順を整理しやすい仕事なのか、複数の要素が絡み合う仕事なのか
  • 誰かの価値観や利害に関わるか――正解を決めやすい仕事なのか、立場によって望ましい答えが変わる仕事なのか

たとえば、定型的な集計や過去事例の検索はAIに任せやすいでしょう。一方で、人事評価や採用、取引先との関係を左右する判断では、最後に人が責任を引き受ける必要があります。

大切なのは、「人にしかできない」「AIに任せればよい」と一括りにするのではなく、業務の性質に応じて役割を描き直すことです。

この考え方は、人と人との協働にも共通します。ある人は顧客の変化に気づくことに長け、別の人は計画を形にすることが得意かもしれません。企画の初期では前者が、実行段階では後者がリードすることもあるでしょう。

誰がどの場面で力を発揮し、どこまで判断し、いつ別の人へ引き継ぐのか。こうした役割と接点が明確であれば、背景や価値観が異なるメンバーでも、完全にわかり合う前から協働を始められます。これが、シェアド・リーダーシップの考え方にも通じます。

鍵③【問いを立てる】チームが向き合うテーマを定める

鍵③「問いを立てる」を表すイメージ画像

3つめの鍵は、「問いを立てる」ことです。

最も重大な誤りは、誤った答えを出すことではない。本当に危険なのは、誤った問いを立てることだ

上に挙げたのは、マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーの言葉です※22

AIが普及した現在、この言葉は改めて考える価値がありそうです。

AIは、与えられた問いに対して、短時間で複数の答えを示します。しかし、そもそも何を尋ねるのかは、人が決めなければなりません。問いが曖昧であれば、返ってくる答えも、どこか一般的なものになりやすくなります。

たとえば、「若手社員の主体性を高めるには?」と問えば、研修や1on1、権限委譲といった一般的な答えが返ってくるでしょう。一方で、「若手社員が上司の返答を待ってしまうのは、どの業務のどの場面か」と問えば、チームが見るべき現実が具体的になります。

問いを立てるとは、格好のよいテーマを掲げることではなく、チームが向き合う対象を明確にすることです。前提や価値観が異なるメンバーでも、同じ問いを共有できれば、議論の出発点をそろえられます。答えが大量に手に入る時代ほど、何を問うかがチームの分かれ目になるのです。

3つの鍵を整理する

ここまでの内容を整理しておきます。

3つの鍵 「断絶」との関係 「AI」との関係
①判断のコンテクスト:判断の仕方を共有する 前提を共有していないメンバーでも、判断基準があれば状況に応じて動きやすい AIへの指示や出力の評価には、優先順位や例外条件の言語化が必要になる
②協働の設計:役割と接点を描く 完全にわかり合う前でも、強みと役割をもとに協力を始められる 業務の性質に応じて、人とAIの役割を分けられる
③問いを立てる:向き合うテーマを定める 価値観が異なるメンバーでも、同じ問いを共有することで議論を始められる 答えが大量に得られるほど、何を問うかの重要性が高まる

3つの鍵に共通するのは、リーダーが正解を一方的に渡すのではなく、メンバーやAIが力を発揮しやすい状態をつくるという点です。

判断のコンテクストを共有すること。それぞれの強みや役割を整理すること。チームが向き合う問いを定めること。

いずれも、リーダーがすべての答えを持つことを前提にしていません。むしろ、自分だけで答えを抱え込まず、周囲が考え、判断し、動ける余地をつくる仕事です。

歴史パートの最後では、現代のリーダーシップ理論が、リーダーの能力や行動だけでなく、その人や組織の「在り方」を重視する方向へ広がっていることを紹介しました。断絶とAIの時代に求められるリーダーシップも、その流れの延長線上にあるように思います。

「何でも自分で答えられる人」になることではなく、人やAIの力を借りながら、チームが前に進める状態をつくること。これからのリーダーには、そのような役割がいっそう求められるのかもしれません。

ただし、判断を伝え、役割を任せ、問いを投げかけるには、その相手をよく見る必要があります。最後に、この3つの鍵を支える「人への関心」について考えます。

5
【まとめ】リーダーシップの土台にある「人への関心」

ここまでの内容を、簡単に振り返ります。

  • リーダーシップとは、「望ましい状態の実現に向けて、他者に働きかけること」。その捉え方は、特性論から行動論、条件適応論、コンセプト理論へと、環境の変化に応じて広がってきた
  • 2026年のキーワードは「断絶」と「AI」。共通の前提を持つメンバーだけでチームをつくることが難しくなり、一定水準の答えはAIから得られるようになった
  • この環境に向き合う視点として、「判断のコンテクストの共有」「協働の設計」「問いを立てること」の3つを挙げた。いずれも、リーダーが正解を配るのではなく、チームが考え、判断し、動ける状態をつくる働きかけである

そして前章の最後に、「この3つの働きかけの土台には、『相手をよく見る』という姿勢がある」とお伝えしました。

実際、判断の背景を伝えるには「どんな言葉なら相手に届くか」を、役割を任せるには「この人はどんな場面で力を発揮するか」を、問いを投げかけるには「メンバーがいま何に迷っているか」を、それぞれ見ようとする必要があります。その姿勢がなければ、判断の共有は一方的な講釈に、役割分担はただの割り振り表に、問いかけは空回りするスローガンになってしまうでしょう。

日本の実業家であり、ホンダの創業者である本田宗一郎さんは、次の言葉を残しています※23

人を動かすことのできる人は、他人の気持ちになれる人である。その代わり、他人の気持ちになれる人というのは自分が悩む。自分が悩んだことのない人は、まず人を動かすことはできない。

断絶のある時代のチームづくりに、あるいはAIとの距離感に、迷うことは誰にでもあると思います。ですがこの言葉に照らすなら、その迷いはリーダーとしての弱さではありません。

相手への影響を考えるからこそ、簡単には答えを決められない。その迷いは、相手への影響を真剣に考えているからこそ生まれるものでもあります。

AIは短時間で多くの答えを示してくれます。しかし、どの答えを選ぶのか、その選択が誰にどう影響するのか──そこまでをリーダーに代わって引き受けてくれるわけではありません。

時代が変わり、リーダーに求められる役割が変わっても、その土台にあるものは変わりません。目の前の人が何を考え、どこで迷い、何を必要としているのかを知ろうとすること。リーダーシップの2000年の歴史の先に残るのは、結局のところ、そうした「人への関心」なのかもしれません。

出典・参考文献

※1 Thomas Carlyle, On Heroes, Hero-Worship, and the Heroic in History, 1841.(邦訳:カーライル『英雄崇拝論』老田三郎訳、岩波文庫、1949年)
※2 R.M. Stogdill, “Personal Factors Associated with Leadership: A Survey of the Literature,” The Journal of Psychology, 25(1), 1948, pp.35–71. および R.M. Stogdill, Handbook of Leadership: A Survey of Theory and Research, Free Press, 1974.(特性の訳語・整理は各種文献をもとに弊社作成)
※3 三隅二不二『新しいリーダーシップ―集団指導の行動科学』ダイヤモンド社、1966年
※4 R.R. Blake & J.S. Mouton, The Managerial Grid, Gulf Publishing, 1964.
※5 F.E. Fiedler, A Theory of Leadership Effectiveness, McGraw-Hill, 1967.
※6 スティーブン・P・ロビンス『[新版]組織行動のマネジメント―入門から実践へ』高木晴夫訳、ダイヤモンド社、2009年
※7 B.M. Bass & B.J. Avolio (eds.), Improving Organizational Effectiveness Through Transformational Leadership, Sage Publications, 1994.
※8 R.K. Greenleaf, The Servant as Leader, 1970.(邦訳:ロバート・K・グリーンリーフ『サーバントリーダーシップ』金井壽宏監訳、金井真弓訳、英治出版、2008年)
※9 NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会「サーバントリーダーの属性」(L.スピアーズによる整理をもとにしたもの)
※10 Bill George, Authentic Leadership: Rediscovering the Secrets to Creating Lasting Value, Jossey-Bass, 2003.(邦訳:ビル・ジョージ『ミッション・リーダーシップ―企業の持続的成長を図る』梅津祐良訳、生産性出版、2004年)
※11 石川淳『シェアド・リーダーシップ―チーム全員の影響力が職場を強くする』中央経済社、2016年
※12 世界経済フォーラム年次総会2026(ダボス会議、2026年1月19日~23日、テーマ「A Spirit of Dialogue(対話の精神)」)。報道:朝日新聞「日本は準備できているか 『新しい世界』へ、ダボス会議が問う覚悟」2026年2月6日/Forbes JAPAN「ダボス・リポート2026(5)古い秩序はもう戻らない。」2026年1月28日
※13 World Economic Forum, Global Risks Report 2026, January 2026.(日本語解説:世界経済フォーラム「2026年のグローバルリスク、トップは地経学上の対立」2026年1月18日)
※14 総務省「労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均結果」2026年2月公表
※15 株式会社月刊総務「Z世代(若手社員)の育成に関する調査」2025年10月9日公表(全国の総務担当者147名対象、マネジメント設問はZ世代を採用している企業n=136)
※16 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」2025年10月24日公表
※17 Sam Birchall, “AI is eroding leadership credibility, survey shows,” Raconteur, 5 December 2025.(調査会社Attestと共同で実施した英国従業員1,000名対象の調査)
※18 Gartner, “Gartner Research Finds Only 8% of HR Leaders Believe Their Managers Have the Skills to Effectively Use AI,” press release, 8 October 2025.
※19 野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』梅本勝博訳、東洋経済新報社、1996年
※20 Teresa Tung & Philippe Roussiere, “Tacit Knowledge Is Your Next Competitive Moat,” California Management Review (Insight), 16 March 2026.
※21 Adrian Wolfberg, “Framing the Human–AI Fit: Matching Collaboration Strategies to Hybrid Problems,” California Management Review (Insight), 22 December 2025.
※22 Peter F. Drucker, Men, Ideas and Politics, Harper & Row, 1971.(邦訳:ピーター・F・ドラッカー『状況への挑戦』風間禎三郎訳、ダイヤモンド社)
※23 PHP研究所編『本田宗一郎「一日一話」――“独創”に賭ける男の哲学』PHP文庫

あなたのモヤモヤも、
言葉にしてみませんか?

これからのリーダーシップについて考えてみよう──2000年のリーダーシップの歴史とAI時代のリーダー像に何かを感じたら、
あなたの想いを誰かに聞いてもらったり、誰かの体験談に触れてみましょう。

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