「決められない」「決断できない」のはなぜ?──決断が苦手な人への処方箋
みなさんの中に、自分のことをこんなふうに思っている人はいませんか?
- 優柔不断なほうだ
- 大事なところで物事を決められない
- 自分の決断にあまり自信を持てない
決められないとき、私たちはつい「自分の意志が弱いせいだ」と考えがちです。でも、本当にそうなのでしょうか。
この記事では、「決められない」とき私たちの中で何が起きているのかを解きほぐしながら、今ある悩みにどう向き合えばいいのかを紹介します。決断が苦手な自分と、うまくつき合えるようになりたい人は、ぜひ読んでみてください。
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「決めるのが苦手」という人は、実はかなり多い

自分は決めるのが苦手だ……と感じている人は、「自分はとくに決められない性格だ」と思い込んでいないでしょうか。実際のところ、他の人はどうなのでしょう。
社会人5年目以上の方に「自身が【苦手】とする働きかけ」をたずねたところ、最も多かった回答は「率先力」「決断力」をもってチームを導いていくことでした。実に6割以上の人が、ここに苦手意識を持っていたのです。
社会人5年目以上の方の「自身が【苦手】と感じていること」
| 苦手なこと | 割合(%) |
|---|---|
| 「率先力」・「決断力」をもって、チームを導いていく | 61% |
| 「アイデア」・「発想」・「創意工夫」で、自身と周囲の行動を活性化していく | 34% |
| これから先、未来に起きることを「先読み」し、「周到な手配・準備」を行う | 25% |
| 「達成志向」と「行動力」を武器に、メンバーを導いていく | 23% |
| 相手の納得と共感を得る為の、適切な「コミュニケーション」を発信していく | 19% |
| 「知識・知恵」または「知的好奇心」をもって、環境を切り開いていく | 18% |
| 「課題」を「創出・分析」し、解決のための「思考」を積み上げていく | 17% |
| 「俯瞰」した、かつ「複数の視点」から状況を捉え、物事を適切に進めていく | 14% |
| 「慎重さ」・「繊細さ」をもって、チーム・メンバーの活動を支えていく | 11% |
| 「協調」・「調和」を大切にし、メンバーの協働を促していく | 9% |
※ 自社アンケート調査より(n=200 2019年)
(意外と、みんな「決める」ことが苦手なんだな)──そう感じた方も多いのではないでしょうか。
では、「決断力」に苦手意識を持つ人は、具体的にどんな場面でそう感じているのでしょうか。同じアンケートに寄せられたコメントを見てみます。
独断で判断して動くことが昔から苦手でした。何かを決めなくてはいけないときも『相手が嫌な思いをしていたらどうしよう』と思ってしまい、判断ができなくなることがよくあります。
— 20代男性・医療・福祉
昔から決断することが苦手で、仕事で何かを決めるときも、上司に相談しないと不安になってしまうことが多いです。
— 30代女性・サービス業
重要な意思決定となると迷いが出てしまって、決断できなかったり、非常に時間がかかってしまったりします。
— 20代女性・農林水産業
どこか自分と重なる、と感じた人もいるでしょう。自分で決めるとなると、
- 周囲にどう思われるか気になる
- 誰かの判断や考えを聞きたくなる
- 和を乱したくない
そんなふうに感じてしまう人は、案外多いものです。
いま「決められない」自分に自信を持てずにいる人も、もしかすると、自分だけが特別に決断が苦手なのだと思い込んでいるかもしれません。
ですが、少なくともこの調査では、社会人5年目以上の6割以上が、「率先力」や「決断力」をもってチームを導くことに苦手意識を持っていました。つまり、決断に苦手意識があるのは、決して珍しいことではないのです。
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なぜ決められないのか──研究が指す3つの正体
「知識や経験が足りないから決められない」「まだ決める時期じゃないから」。決断が苦手な理由を、私たちはだいたいこんなふうに考えます。
ですが、人がどう物事を決めるのかを調べた研究を見ていくと、どうやら原因はそこではないらしい、ということが見えてきます。「足りないから決められない」「時期尚早だから決められない」のではなく、人の心と頭の動き方そのものに、決められない理由があるのです。
トレードオフから逃げている──どちらかを切り捨てる痛みを避けたい

選択肢を前にして動けなくなるのは、「片方を選べば、もう片方は手放すことになる」——その痛みを避けたいからという無意識が働いていることが多いといいます。
これは、消費者心理を研究するメアリー・フランシス・ルースの提唱で、心理学用語では「トレードオフの回避」と名づけられています。ルースは、どちらかを諦めるときに生まれる嫌な感情を避けたくて、人は選ぶこと自体を後回しにしてしまう、と指摘しました。
たとえば、条件のいい会社と、居心地のいい会社。安定と、やりがい。両方に捨てがたいものがあるとき、私たちは「比べられない」のではなくて、「どちらかを諦めたくない」と感じてしまいがちです。このようなときに、「トレードオフの回避」の意識が働き、決断できなくなってしまうことがあるのです。
出典:Luce, M. F. (1998). Choosing to Avoid: Coping with Negatively Emotion-Laden Consumer Decisions. Journal of Consumer Research, 24(4), 409–433. https://doi.org/10.1086/209518
「間違えたくない」が動けなさを生む──予期する後悔

決める前から「これを選んで後悔したらどうしよう」と身構えてしまう。この「まだ起きていない後悔への不安」も、決められなさの大きな原因です。
まだ起きてもいない後悔を先に感じると、選び間違えることが実際以上に怖くなります。しかも、結果がはっきり目に見える決断や、あとで取り返しのつかない決断ほど、その怖さは強まります。そうして「だったら、決めないでおこう」に傾いていく。
アメリカの心理学者クリストファー・アンダーソンは、この後悔の予期や選択肢どうしの葛藤こそ、人を「何もしない」ほうへ押しやる中心的な要因だと整理しています。
出典:Anderson, C. J. (2003). The Psychology of Doing Nothing: Forms of Decision Avoidance Result from Reason and Emotion. Psychological Bulletin, 129(1), 139–167. https://doi.org/10.1037/0033-2909.129.1.139
情報や選択肢が多すぎる──「調べるほど決められない」の正体

選択肢が多いことは、かえって決断を遠ざけてしまう場合があります。人は選べるものが多すぎると、うまく決められなくなることがあるのです。
これを示したのが、コロンビア大学のシーナ・アイエンガーらによる有名な実験です。スーパーの試食コーナーでジャムを売ったところ、24種類を並べた日は、6種類だけの日よりも多くの客が足を止めました。ところが、実際に購入した人は、24種類のときのほうがずっと少なかったのです。
たくさんあれば選びやすい、とはかぎりません。選択肢が増えるほど、人はかえって選べなくなることがあります。
ここで注意したいのは、「もう少し調べてから決めよう」と情報を足しつづけることが、ときに逆効果になる点です。情報を集めるほど比較する材料も増え、判断の軸が見えにくくなる。その結果、決められない時間を長引かせてしまうことがあるのです。
出典:Iyengar, S. S., & Lepper, M. R. (2000). When Choice Is Demotivating: Can One Desire Too Much of a Good Thing? Journal of Personality and Social Psychology, 79(6), 995–1006. https://doi.org/10.1037/0022-3514.79.6.995
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「決められない」への、2つの対処
「いま決めなくてもいい」「もう少し様子を見よう」
そう考えて決断を先延ばしにすると、その瞬間は気持ちがラクになります。決めなければ、選択を間違えて後悔することもない。しかし、「決めない」という選択は、思っているほど後悔を避ける助けにはならないようです。
決断を避けることと後悔の関係を調べた研究では、決断を避けても後悔がはっきり減るとはいえないことが示されています※。むしろ、過去に同じような先送りで痛い目を見た経験がある人ほど、再び決断を避けたときの後悔が強くなる傾向がありました。
つまり、一度「決めなかったことで後悔した」人ほど、次に先送りしたときの後悔は重くなりやすいのです。
──では、どうすればいいか。ここで紹介するのは、2つの対策です。1つは、「決断の『種類』を確かめる」こと。そしてもう1つは、「4つの視点(事実・影響・見通し・意思)に分けて整理する」ことです。詳しく見ていきましょう。
※出典:Han, Q., Quadflieg, S., & Ludwig, C. J. H. (2023). Decision avoidance and post-decision regret: A systematic review and meta-analysis. PLOS ONE, 18(10), e0292857. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0292857
対策1:「その判断は、『今の自分一人で抱えきれるもの』かどうか」を、見極める

決断の2つの種類:「リスクへの決断」と「不確実性への決断」
経済学者フランク・ナイトは、人が直面する決断には2種類あると指摘しました。
ひとつは、確率をある程度見積もって判断できる「リスク」の決断です。たとえば、保険に入るかどうか、投資でどのくらい損をする可能性があるか、といった判断がこれにあたります。過去のデータや数字をもとに、「どのくらいの確率で、どんな結果が起こりそうか」をある程度計算できます。
もうひとつは、そもそも確率を計算しにくい「不確実性」の決断です。たとえば、この会社に転職して本当に幸せになれるのか、この人と一緒に働いてうまくいくのか、今の環境に残ることが将来の自分にとってよいのか。こうした問いには、数字だけでは答えが出ません。いくら情報を集めても、「何%の確率で正解」とは言い切れないからです。
キャリアや人間関係の悩みは、多くの場合、この「不確実性」の決断にあたります。どれだけ情報を集めても、確信に届きにくい種類の決断だからです。
それなのに私たちは、「もっと考えればわかるはず」と思ってしまう。その結果、正解探しを続けすぎて、決められない時間が長引いてしまうのです。
その「不確実性への決断」は、今の自分一人で抱えきれるものか
そこで、「不確実性への決断」で悩んだ際にまず確認したいのは、「その判断は、今の自分一人で抱えきれるものか」という点です。
もし、どれだけ考えても確信が持てないなら、それは自分の考えが足りないからではなく、そもそも一人だけでは決めにくい種類の悩みなのかもしれません。
キャリアや人間関係のような決断は、自分の価値観だけでなく、周囲との関係や、これから身を置く環境にも大きく左右されるからです。
「人に相談すること」は逃げではない
では、一人では抱えきれない判断には、どう向き合えばいいのでしょうか。
ひとつの有効な方法は、信頼できる人に話してみることです。
人類学者メアリー・ダグラスは、私たちの判断は、個人の内側だけで完結するものではなく、人間関係や所属する集団の考え方にも支えられていると述べています。つまり、私たちが何かを「これでいい」と感じるとき、その確信は自分一人の中だけで生まれているわけではない、ということです。
そう考えると、判断に確信が持てないのは、意志が弱いからではなく、その問題が一人では抱えきれない種類のものだからかもしれません。自分ひとりの中だけでは完結しないものだからこそ、迷いが深くなっている可能性もあるのです。
そんなとき、信頼できる人に相談することは、逃げではなく、自分の判断を確かめるための大切な行為です。
もちろん、相談とは「答えを他人に決めてもらうこと」ではありません。自分の考えを言葉にし、相手の視点を借りながら、「自分は何を大事にしたいのか」「どこに引っかかっているのか」を確かめていくことです。
話しているうちに、「本当はここが不安だった」「自分はこの条件を大事にしたかった」と気づけることがあります。その積み重ねが、自分なりに納得して決めるための支えになっていきます。
出典:Douglas, M. (2001). Dealing with Uncertainty. Ethical Perspectives, 8(3), 145–155. https://philpapers.org/rec/DOUDWU
対策2:迷っている状況を「4つの視点(事実・影響・見通し・意思)」に分けて整理する

信頼できる人に話すことが助けになる一方で、最終的には自分で向き合わなければならない決断もあります。
そのときに役立つのが、迷っている状況を「4つの視点」に分けて整理する方法です。
ここでの4つの視点とは、次の4つです。

- いま何が起きているのか
- それは自分にどんな影響を与えているのか
- このまま進むと、これから何が起きそうか
- そのうえで、自分はどうしたいのか
決められないとき、私たちの頭の中では「不安」「事実」「他人の目」「将来への心配」が混ざり合っています。
たとえば、「転職したほうがいいのか」で悩んでいるときも、実際にはいくつもの考えが同時に動いています。
- 「今の職場に不満がある」
- 「でも、転職して失敗したらどうしよう」
- 「周りから逃げたと思われるかもしれない」
- 「このまま残っても、成長できない気がする」
こうした考えを頭の中だけで処理しようとすると、どれが事実で、どれが不安で、どれが本音なのかが分かりにくくなります。
そこで、まずは次の順番で書き出してみます。
| 視点 | 問い | 考え方 |
|---|---|---|
| ①状況 | いま何が起きているのか | 仕事内容、人間関係、評価、給与、働き方など、現在の状態をできるだけ事実ベースで整理する |
| ②影響 | その状況は、自分にどんな影響を与えているのか | 気持ち、体調、成長実感、生活、将来への不安など、自分に起きている変化を整理する |
| ③見通し | このまま進むと、これから何が起きそうか | 今の環境に残った場合、あるいは別の選択をした場合に、短期・中長期で起こりそうなことを考える |
| ④意思 | そのうえで、自分はどうしたいのか | 「どうすべきか」ではなく、「自分は何を大事にしたいのか」「どちらに納得できそうか」を考える |
たとえば、今の仕事を続けるか、転職するかで迷っている場合は、次のように整理できます。

| 視点 | 例 |
|---|---|
| ①状況 | 事務職として5年働いている。業務には慣れているが、新しい知識やスキルを身につける機会が少なくなっている |
| ②影響 | 仕事は安定している一方で、このままでよいのかという焦りがある。成長が止まっている感覚があり、将来への不安も出てきている |
| ③見通し | このまま続ければ、安定は保てるが、専門性を伸ばす機会は限られる可能性がある。一方で、経理や別職種に挑戦すれば、短期的には負荷が増えるが、将来の選択肢は広がるかもしれない |
| ④意思 | すぐに転職するかどうかは別として、まずは経理業務に関わる機会を探したい。資格取得や社内異動も含めて、専門性を伸ばす方向に動きたい |
特に④の「自分はどうしたいのか」を考えるときは、「転職すべき」「我慢すべき」「資格を取るべき」といった義務感だけで決めないようにします。
もちろん、現実的な条件を無視する必要はありません。収入、年齢、家族、健康状態、職場環境などは、どれも大切な判断材料です。ただ、それだけで決めようとすると、「損をしない選択」ばかりに意識が向き、自分が本当に大切にしたいものが見えにくくなります。
だからこそ、状況、影響、見通し、意思の4つに分けて書き出してみる。すると、「仕事を辞めたい」という気持ちの奥に、「もっと成長したい」「安心して働きたい」「自分の時間を取り戻したい」といった、本当に大切にしたい価値観が見えてくることがあります。
決断とは、正解を当てることではありません。今の自分が何に困っていて、これから何を大切にしたいのかを確かめ、そのうえで一歩を選ぶことです。
迷いをそのまま抱え込むのではなく、4つの視点に分けて眺めてみる。それだけでも、決断は少し扱いやすくなります。
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まとめ:「決められない」とのつき合い方

この記事のポイント
- 決断が苦手な人は珍しくない。社会人の6割以上が「決断力」に苦手意識を持っている
- 決められないのは意志が弱いからではなく、トレードオフの回避・後悔の予期・選択肢の多さという、人の感情と認知の仕組みから生まれている
- 決断を先送りにしても、後悔は思っているほど減らない。過去に避けて痛い目を見た経験があると、後悔はむしろ強まる
- 確信が持てない決断は、一人で抱え込むよりも、信頼できる人に話すことで、自分の判断の輪郭が見えやすくなる
- 自分で向き合う必要があるときは、「状況」「影響」「見通し」「意思」の4つの視点に分けて、迷いを整理してみる
- 大切なのは、「どうすべきか」だけで決めないこと。事実や現実的な条件を見たうえで、自分が何を大切にしたいのかを確かめる
私たちはつい、「正しい選択肢を選ばなければ」「後悔しない答えを見つけなければ」と考えてしまいます。けれど、キャリアや人間関係のような大きな決断では、最初から正解が見えていることのほうが少ないものです。どれだけ考えても、どれだけ情報を集めても、「これなら絶対に大丈夫」と言い切れない場面はあります。
だから、「決められない自分」を責め続けても、決断が上手になるわけではありません。むしろ、迷うのは、それだけ真剣に考えているからです。失敗したくない。誰かを傷つけたくない。できるだけ納得できる選択をしたい。そうした思いがあるからこそ、人は簡単には決められなくなるのです。
大切なのは、迷いをなくすことではなく、迷いの中身を少しずつ見える形にしていくことです。
これは一人で確信できる決断なのか。信頼できる人に話すことで、見えてくるものはないか。いま何が起きていて、それは自分にどんな影響を与えているのか。このまま進むと何が起きそうで、そのうえで自分はどうしたいのか。
そうやって問い方を変えていくと、頭の中で絡まっていた不安や事実、他人の目や自分の本音が、少しずつ分かれて見えてきます。すると、「どれが正解か」ではなく、「今の自分は何を大切にして、一歩を選びたいのか」が見えやすくなります。
決断力は、最初から自信満々に選べる人だけのものではありません。迷いながらでも、自分なりに考え、必要なときには誰かの力も借りながら、納得できる一歩を選んでいく。その積み重ねが、少しずつ「決められる自分」を育てていきます。
次に「決められない」と感じたときは、自分を責める前に、まず問い方を変えてみてください。決断とは、正解を当てることではなく、自分が大切にしたいものを確かめながら、一歩を選んでいくことなのですから。
あなたのモヤモヤも、
言葉にしてみませんか?
「決められない」「決断できない」のはなぜ?──決断が苦手な人への処方箋に何かを感じたら、
あなたの想いを誰かに聞いてもらったり、誰かの体験談に触れてみましょう。